はじめに
企業経営において「問題社員」の存在は、業務効率や職場の士気、そして経営資源に深刻な影響を及ぼします。特に中小企業では一人の社員の問題行動が全体の組織運営に大きな支障を来すことがあります。そこで本記事では、経営者側に有利な視点から、「問題社員とは何か」「どのような兆候をもって見極めるべきか」「なぜ早期対応が重要なのか」を具体的かつ実務的に解説します。
本記事の想定読者:
中小企業の経営者
人事労務担当者
就業規則の整備を検討している企業
1. 問題社員とは?明確な定義と企業が抱えるリスク
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● 問題社員の一般的な定義
“問題社員”とは、業務の遂行能力や協調性に問題があり、企業秩序や職場環境を乱すような言動を繰り返す社員のことを指します。典型的な例には以下のような行動があります。
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無断欠勤・遅刻・早退の常習
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職務怠慢、業務命令違反
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パワハラやモラハラ
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セクハラや社内規律違反行為
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同僚とのトラブル、協調性欠如
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勤怠は正常だが業務が著しく非効率
● 経営リスクとしての「問題社員」
問題社員を放置することは、以下のようなリスクを引き起こします。
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職場のモチベーション低下:優秀な人材の離職原因にもなり得る
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企業イメージの悪化:顧客や取引先への対応ミスが頻発
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法的リスク:パワハラ等による労働トラブル・訴訟
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2. 問題社員の見極め方|7つの兆候チェックリスト
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問題社員は突然現れるわけではなく、日々の業務の中に兆候を見せます。以下のような行動が頻繁に見られる場合は要注意です。
✅ 兆候チェックリスト
項目 内容 ① 勤怠不良 遅刻・早退・欠勤が多い、理由が曖昧 ② 非協力的態度 会議での不参加、命令無視、反抗的態度 ③ 言動の粗暴化 ハラスメント傾向、同僚への威圧的発言 ④ 成果不良 業務目標をまったく達成できない ⑤ 報連相の欠如 ミスを隠す、報告しない、独断専行 ⑥ SNS・私用トラブル 就業時間中の私用スマホ、SNSでの会社批判 ⑦ 素行不良 社外での問題行動、無許可副業や情報漏洩 これらに該当する項目が複数ある場合は、適切な人事対応の準備段階に入ることが望まれます。
3. 見て見ぬふりは危険!放置した場合のデメリット
● 「他の社員への悪影響」が最大のリスク
問題社員の存在が許容される職場では、真面目に働く社員のモチベーションが低下し、「頑張っても評価されない職場」という不信感を生みます。これにより以下のような二次的被害が発生します。
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業務品質の低下
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優秀人材の離職
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職場の閉塞感・内紛の増加
● 法的トラブルの種になることも
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他社員からのハラスメント被害申告
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顧客からのクレーム(接客態度など)
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社外への情報漏洩
これらは「企業の責任」として使用者責任を問われるケースにも発展し得ます。
4. 問題社員への初期対応フロー
● ステップ1:事実確認と証拠保全
問題行動を確認したら、感情的にならず冷静に「記録」を残しましょう。
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業務指示書や命令書を文書化
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メールやチャットでのやりとり保存
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勤怠記録・業務報告書の保管
● ステップ2:上司・人事部による面談
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第三者立ち会いで実施(労務トラブル防止)
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指導内容は記録に残す(面談記録、注意書きなど)
● ステップ3:改善機会の提供
「いきなり懲戒」「即時解雇」ではなく、改善の機会を与えたという事実が重要です。以下の対応を段階的に実施します。
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注意指導
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始末書の提出要請
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再教育・配置転換の検討
5. 問題社員対応の落とし穴とNG例
❌ NG対応①:感情的な注意・叱責
パワハラ認定リスクがあるため、冷静で客観的な対応が不可欠です。
❌ NG対応②:記録を残していない
裁判・労基署対応で「口頭だけ」の指導は無効とされる可能性が高いため、記録化が必須です。
❌ NG対応③:一発解雇
就業規則や労働契約に即した「段階的措置」を経ていない解雇は、後に無効とされることがあります。
6. 経営者が知っておくべき「予防策」
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✅ 定期的な評価制度の導入(客観的データの蓄積)
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✅ 就業規則の明文化(懲戒規定を明確に)
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✅ 社員研修の実施(ハラスメント・倫理教育)
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✅ 問題社員発生時の社労士・弁護士との連携体制構築
まとめ|問題社員は“早期発見・記録・段階的対応”が鉄則
問題社員への対応は、感情ではなく“仕組みと記録”で戦うことが大原則です。初期段階で明確な基準を持ち、記録を積み重ね、改善の機会を与えることで、最終的に「合法的な解雇」への道が開かれます。
次回の第2部では、「就業規則の整備をどう進めるか」「どんな文言を盛り込むべきか」など、解雇に向けた基盤作りについて解説します。