企業の経営者や人事・総務の担当者向けに年末調整を実施する目的や、手続きの流れを解説します。会社として正しく納税するため、年末調整に対する理解を深めていきましょう。
「年末調整が複雑で、いまいちよく理解できていない」「対応しているが、抜け漏れがないか不安」というお悩みをおもちではありませんか?
年末調整は従業員の所得税を正しく収めるために必要な手続きです。従業員を抱えている企業であれば、その年の終わりに必ず実施しなければなりません。
年末調整は所得税の差額を清算するための手続き年末調整は所得税の差額を清算するための手続き
年末調整とは、毎月の給料や賞与から源泉徴収された所得税(源泉所得税)と実際に支払うべき所得税の差額を清算するための手続きのことです。
年間所得が確定する12月頃に実施されることから年末調整と呼ばれます。年末調整は、従業員を抱える会社であれば必ず実施しなければなりません。
源泉徴収とは、事業者が労働者に支払う賃金(給与、賞与、報酬など)から所得税に相当する金額を徴収する仕組みのことです。労働者にとっては実質的に所得税の分納となるため、経済的負担が軽減されるメリットがあります。会社は源泉徴収した税金を月ごとに税務署へ納めなければなりません。
しかし、源泉所得税と実際に支払うべき所得税には金額の乖離があります。所得税はその年の年間所得に対して課税されるものですが、源泉徴収所得税はその年の想定年収から概算されるからです。
実際には昇給や残業の有無で従業員の年収は変動しますし、所得税を算出する際には各種控除も適用されます。そのため、年間所得が確定する年末に改めて所得税を計算し、源泉所得税との差額を清算する必要があるのです。
事業者には従業員の所得税を正しく納税する義務があります。そのため、年末を迎える前に従業員の所得税を再計算し、本来納税すべき税額を確定させなければなりません。
所得税を再計算した結果、過剰に源泉徴収していた場合は従業員へ差額を返金し、逆に金額が不足していた場合は追加徴収を行います。この一連の手続きが年末調整です。
なお、個人事業主やフリーランスの労働者には年末調整の仕組みはありません。その代わりに翌年に税務署で確定申告をおこなうことで納税額を修正することができます。「各事業者は従業員の確定申告を代行している」ともいえるでしょう。
年末調整が必要な従業員の年末調整に不備や不正があった場合、企業が罰則を科される可能性があります。年末調整をしないことによる影響も大きいため、ミスのない年末調整をする必要があります。
アルバイトやパート社員も年末調整の対象になります
年末調整は、基本的には給与を支払った全従業員が対象です。アルバイトやパート社員など非正規社員に対しても手続きを行います。
まずは、前提として、労働者に対して年末調整の手続きを行えるのは1社のみです。複数の職場を掛け持ちしている場合には掛け持ちしているどこの職場で年末調整を行うか決めてもらう必要があります。
原則として年末調整を行うのは最も収入が多い職場です。
ではその他の職場の収入は年末調整しなくて良いのか?
これは、従業員本人が個別に確定申告を行います。
年末調整の対象外となるケース
例外的に年末調整の対象とならない場合を紹介します。
・その年の給与収入が2,000万円を超えている
・災害減免法により、納税の猶予を受けている
年間所得2,000万円以上の給与所得者は、年末調整ではなく確定申告で納税することが国により定められています。年収2,000万円というと一般的にはかなりの高収入であり割合としては少ないですが、会社の役員であれば該当するケースも珍しくありません。
また、大規模災害により経済的ダメージを受けた人には災害減免法が適用されることがあります。これによる所得税納付の猶予を受けている従業員も年末調整の対象外です。
調整に必要な書類は3種類
年末調整に必要な書類は以下の3種類です。
・給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
・保険料控除申告書
・給与所得者の基礎控除申告書申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書
事業者は予め上記の書類を従業員へ配布し、必要事項の記入を済ませてもらった上で回収します。この回収作業に骨を折った経験をお持ちの人事総務のご担当者も多いでしょう。近年では書類ではなく電子申請で処理をするケースも増えています。
1.給与所得者の扶養控除等(移動)申告書
「給与所得者の扶養控除等(移動)申告書」は、原則として、毎年最初に給与受けるときまで(中途入社の場合、入社後最初に給与の支払い受ける日の前日まで) に提出することとされています。
なお、年の途中で、配偶者や扶養親族等の状況に異動(結婚・離婚・出生・就職その他)が生じた場合には、その異動があ った日後最初に給与の支払いを受ける日の前日までに異動の内容を記載したものを提出しなければなりません。
入社初年度は入社時に他の書類と一緒に提出することが一般的です。
2.給与所得者の保険料控除申告書
「給与所得者の保険料控除申告書」は、生命保険料控除額や損害保険料控除額等、および、配偶者特別控除額の計算の基となる申告書で、その年中に支払った生命保険料・地震保険料や、給与か ら控除されたもの以外で支払った社会保険料(例えば国民健康保険料、国民年金など)の明細、および、配偶者の氏名・本人および配偶者の見積所得金額等 を記載するものです。
なお、年末調整時には同書類と合わせて保険料の支払いを証明する書類(支払証明書)の提出が必要です。支払証明書は毎年10月頃に保険会社から保険加入者の自宅に郵送されます。
3.給与所得者の基礎控除申告書申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書
「給与所得者の基礎控除申告書申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」は、令和1年までの「配偶者控除等申告書」と呼ばれていたものです。令和2年から基礎控除と所得金調整控除の申告と兼用に変更されました。
同書類を提出することで、給与所得者は配偶者控除、もしくは配偶者特別控除が受けられるようになります。
年末調整の手続きの流れ
年末調整の手続きは大まかに以下の流れで進めていきます。()の日付けは理想的なスケジュールを記載してますので参考にしてください。
1.社員の所得控除額を確認する(11月)
2.従業員ごとに源泉徴収額との差額を計算する(12月上旬~)
3.源泉徴収税の精算・納付(12月下旬)
4.事業者単位での納税額の過不足を清算する(翌年1月10日まで)
5.法定調書の提出(翌年1月31日まで)
1.社員の所得控除額を確認する(11月)
初めに行う作業は各従業員の所得控除額の確認です。11月下旬頃に先述した年末調整に必要な書類3種を従業員に配布し、各自で必要事項を記入した上で提出してもらいます。
まず、各従業員毎の本年分の給与および賞与の総額、社会保険料等の控除額、社会保険料等控除後の給与および賞与の金額、毎月の源泉徴収税額等を集計し、源泉徴収簿に記載します。
2.従業員ごとに源泉徴収額との差額を算出する(12月上旬~)
従業員から提出された書類を参考にして、各従業員の源泉徴収額と正しい所得税額の差額を算出します。ここでの計算は単純に「1年間の源泉徴収額」から「正しい所得税額」を差し引くだけです。
例えば、1年間の源泉徴収額が12万円の従業員がいると想定します。このとき正しい所得税額が10万円であれば2万円の過剰徴収が発生しているため、該当の従業員へ還付が必要です。
一方、1年間の源泉徴収額が12万円の社員で、正しい所得税が14万円であった場合、本来納めるべき金額に対して2万円が不足しています。
この場合は該当の従業員に事情を説明し、不足金額を追加徴収しなければなりません。
つまり、年調年税額に対して既徴収済源泉所得税額が多い場合には、その差額を納税者に還付しなければなりません。また、その反対に年調年税額に対して徴収済源泉所得税額が少ない場合には、その差額を納税者から徴収しなければなりません。
具体的には、源泉徴収簿・年末調整欄の年調年税額(○,21欄)から給与・賞与に対する源泉徴収税額の合計額(⑧欄)を差し引くことで、超過税額または不足税額を求めて、12 月の給与または賞与支払時にその超過税額の還付または不足税額の徴収を行います。
3.源泉徴収票を発行し従業員ごとに差額を清算する(12月下旬)
年末調整の結果は源泉徴収票の発行をもって従業員へ通知されます。実際には過剰徴収分が還付されるケースが圧倒的に多く、追加徴収は稀です。追加徴収されるケースでは、もともとの源泉徴収額の計算を間違えていたなど事業者側の落ち度が考えられます。
該当の従業員へは追加徴収の理由を丁寧に説明することが求められます。なお、納税額の差額は翌年1月分の給与で還付するか、もしくは天引き(追加徴収の場合)されることが一般的です。
4.源泉徴収税の精算・納付(翌年1月10日まで)
12月分の源泉徴収税を納付する際は、「所得税徴収高計算書」の該当蘭に年末調整によって明らかになった納税額の差額を記入します。これにより事業者単位でも納税額の差異を清算することが可能です。
5.法定調書の作成と提出(翌年1月31日まで)
年末調整後は以下4種の書類を作成し、翌年の1月31日までに税務署や市区町村に提出しなければなりません。
【税務署へ提出する書類】
・支払調書
・法定調書合計票
・源泉徴収票
【市区町村へ提出する書類】
・給与支払報告書
なお、支払報告書は次年度の住民税に関わる重要な書類です。各従業員が居住する市区町村へ個別に提出されます。
年末調整では法令改正にも注意しよう
この記事では年末要請の内容や手続きに必要な書類、手続きの進め方について解説しました。しかし、ここで解説した内容はあくまで年末調整の大枠であり、実際には細かい決まりごとや金額の算出方法などがあります。国税庁のウェブサイトなども参考にしつつ理解を深めていくとよいでしょう。
例えば、住宅ローン控除は、住宅購入で金融機関等の住宅ローンを利用した場合に、毎年年末の住宅ローン残高に応じて所得税や住民税が控除される制度です。2019年度以降、控除期間が延長されるなどの改正が毎年のように行われています。ただし、初年度は確定申告が必要で、年末調整で控除するのは2年目以降となっています。
令和4年度税制改正では、さらなる控除期間の延長や控除適用基準の見直しが行われたほか、控除率が1%から0.7%に引き下げられました。
控除率が引き下げられた影響は、2023年以降の年末調整で発生することになりますが、2022年度中に住宅購入をした従業員がいるか、対象者をしっかり把握しておくとよいでしょう。
なお、年末調整を始め税制度は年度ごとの改正が頻繁に行われています。所得税に関わる制度も令和2年度に改正されていますので、最新の情報を確認することが大切です。