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カスハラの判断基準と具体例 クレームとの違いを社労士が解説

飯塚匡春

2026.10.20

カスハラの判断基準と具体例|正当なクレームとの違いを解説

どこからカスハラになるのか、要求内容・言動の態様・就業環境への影響から解説。返金要求、長電話、取引先の暴言、医療介護の相談例を通じ、正当な苦情との違いと会社の初動を整理します。

実際の言動がカスハラに当たるかを判断し、会社として対応を決めたい

カスハラかどうかは、お客さまが怒っているか、従業員が苦手と感じているかだけで決まるものではありません。顧客等の言動が社会通念上許容される範囲を超え、従業員の就業環境を害しているかを、経緯や業務の内容も踏まえて判断します。[1]

2026年10月1日から防止措置が義務化され、会社には、被害を受けた従業員を保護する仕組みが求められています。一方で、正当な苦情までカスハラとして扱うことは避けなければなりません。

この記事では、判断に迷いやすい場面を例に、確認する順序を解説します。以下の事例は判断方法を説明するための想定例です。

カスハラの判断で確認する三つの要素

厚生労働省の指針では、次の三つの要素をすべて満たすものが、職場におけるカスハラに当たります。[1]

1. 職場における顧客等の言動であること。

2. 業務の性質などに照らし、社会通念上許容される範囲を超えていること。

3. その言動によって、従業員の就業環境が害されること。

顧客等には、商品を買った人だけでなく、問い合わせをした人、取引先担当者、施設利用者やその家族なども含まれます。取引先の事務所や訪問先の自宅で起きた行為、電話やSNSによる言動も対象になり得ます。

就業環境への影響は、その従業員の訴えを丁寧に聞きつつ、同様の状況で働く一般の労働者なら、看過できない支障を感じるかという観点から確認します。診断書や休職という結果が出るまで待って判断する制度ではありません。

正当なクレームとカスハラの違い

確認したいのは「何を求めているか」と「どのように求めているか」です。要求に理由があっても、暴力や脅迫などの手段が正当化されるわけではありません。反対に、厳しい口調だったという一事だけで、正当な改善要求を排除することも適切ではありません。

場面 まず確認する内容 カスハラが問題となり得る点
不良品の返金要求 不具合、購入状況、契約内容 土下座や無関係な金銭の要求

説明への強い抗議 説明不足や誤案内の有無 人格否定、脅迫、執拗な拘束

電話での再質問 未回答事項や説明の食い違い 同じ要求を反復し業務を妨げる態様

利用方法への配慮の申出 障害特性や必要な配慮 申出そのものをカスハラ扱いしない

同じ「返金してほしい」という言葉でも、事実と契約に沿った申出なのか、威圧によって過大な利益を得ようとしているのかで評価が変わります。会社側の不適切な対応が原因になっていないかも、切り離さずに確認してください。

判断に迷いやすい五つの具体例

■商品に不具合があり強く返金を求められた
まずは不具合と購入状況を確認し、対応可能な内容を説明します。強い不満があることだけでカスハラと判断しないでください。
ただし、担当者への暴言や土下座の強要が加われば、商品の問題とは別に、言動の中止を求める必要があります。「不具合があったので何を言われても我慢する」という指導は、従業員の保護につながりません。

■同じ内容で何度も電話が来る
回数だけでは結論を出せません。説明が不十分で疑問が残っている場合や、担当者によって回答が違う場合もあります。まず、質問と回答を記録して、会社としての説明をそろえます。
そのうえで、十分な説明後も同じ要求を執拗に繰り返し、従業員を拘束する場合には、カスハラが問題となり得ます。窓口の一本化や通話終了の方針を、責任者が検討します。「30分を超えたら必ずカスハラ」といった全国一律の法定基準はありません。

■取引先から人格を否定する発言を受けた
納期や品質に関する厳しい指摘と、担当者への人格否定は別の問題です。企業間の取引であってもカスハラ対策の対象になり得ます。
例えば、取引上の立場を背景に侮辱を繰り返し、担当者が電話対応を続けられなくなっている場合、上司が事実を確認し、必要に応じて相手企業の責任者へ協力を求めます。担当者一人に取引継続の責任を負わせないことが大切です。

■患者や利用者の家族から説明を求められた
医療・介護では、生命や健康への不安が背景にあることも少なくありません。説明を求めること自体と、暴力・脅迫等の言動を分けて確認します。
危険があれば安全確保を優先しますが、提供制限は業法上の義務や利用者への影響を踏まえた個別判断が必要です。責任者の同席、面談場所の変更、連絡方法の指定など、安全に説明を続ける方法も検討します。

■障害のあるお客さまから対応変更を求められた
障害を理由とする差別をしないよう求めることや、合理的配慮を求める意思を示すこと自体は、カスハラには当たりません。[1]
例えば、説明を文字で示してほしい、静かな場所で説明してほしいといった申出は、必要な配慮を確認する場面です。障害の有無だけを基準に問題行為と決めつけず、建設的な対話によって対応を検討します。

一度だけでもカスハラになることがある

反復や長期間の継続は判断要素ですが、必須条件ではありません。強い身体的・精神的苦痛を与える言動は、一度でも就業環境を害することがあります。[1]
暴行や切迫した脅迫があるのに「前回までは問題がなかった」「まだ一度目だから」と対応を先延ばしにしないでください。現場では、法的な該当性の確定より先に、安全を確保します。
同様に、従業員が相談した段階で証拠が十分でなくても、受付を拒むべきではありません。記録はその後に補い、確認できる資料を整理していきます。

判断に迷うときに会社が残す記録

「ひどい客だった」という評価だけでは、後から対応を検証できません。少なくとも、次の事項を記録すると判断しやすくなります。

• 日時、場所、対応者、相手との関係

• 相手が求めた内容と、具体的な発言・行動

• 会社の説明、商品やサービスの不備の有無

• 言動の頻度、継続時間、周囲への影響

• 従業員の体調と、業務に生じた支障

• 録音、メール、画面など、確認できる資料

記録では、確認できた事実と担当者の評価を分けます。録音・録画等は個人情報に配慮して管理し、私用SNSで共有しないでください。従業員が危険を冒して証拠を取りに戻る必要もありません。

よくある質問

〇カスハラと分からなければ上司に報告できませんか
判断がつかない段階でも報告・相談できるようにしてください。会社の相談体制は、発生のおそれや該当性が微妙な場合も含めて対応する必要があります。従業員に認定の責任を負わせる運用は避けます。

〇口コミに不満を書かれたらカスハラですか
不満の表明だけで直ちにカスハラとはいえません。投稿の内容、事実関係、従業員の個人情報の公開や脅迫の有無などを確認します。名誉毀損等の判断や削除請求が必要な場合は、弁護士への相談を検討します。

〇会社に落ち度があれば通話を終えられませんか
会社の不備への対応義務と、暴言等を受け続ける必要性は分けて考えます。責任者が説明を引き継ぎ、問題となる言動の中止を求めたうえで、状況に応じて安全な連絡方法へ変更することを検討してください。

判断基準を自社の顧客対応に合わせる

社会保険労務士法人イイズカ事務所では、店舗、取引先、患者・利用者対応など、会社の業務に合わせて、報告基準と対応手順の整理をご支援します。

具体的な事案で迷う場合は、相手の要求内容、実際の発言、これまでの回答を整理してお問い合わせください。現在の苦情対応マニュアルがあれば、併せて確認します。

あわせて読みたい記事
• 2026年10月施行の義務化と企業の対応
• 悪質事案にも対応できるカスハラ対策マニュアル
参考資料
• [1] 厚生労働省告示第51号 カスタマーハラスメント防止指針 2・4 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=75ac0814&dataType=0&pageNo=1
• [2] 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
法令・公表資料の確認日:2026年10月18日

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