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社会保険労務士

「口コミに書くぞ」「土下座しろ」どこからカスハラ? 判断基準と会社の対応例

飯塚匡春

2026.11.06

「口コミに書くぞ」「土下座しろ」どこからカスハラ? 判断基準と会社の対応例

2026年11月1日現在
「無料にしないなら、担当者の顔写真をSNSに載せる」「責任を取って土下座しろ」。現場でこうした要求を受けたとき、担当者が一人で謝り続ける対応には限界があります。正当な苦情には対応しながら、暴言や過剰な要求から従業員を守る仕組みが必要です。
2026年10月1日から、カスタマーハラスメント対策はすべての事業主の義務となりました。11月は、用意した方針やマニュアルを、実際の現場で使えるか確認する時期です。この記事では、架空の場面を使い、判断の考え方と対応例を説明します。

カスハラは要求の内容と伝え方を分けて確認する

カスハラの判断では、顧客等の言動が、仕事の性質や経緯等に照らして許容される範囲を超え、従業員の働く環境を害しているかを確認します。店舗の客だけでなく、取引先の担当者や施設の利用者等も対象で、電話・SNSでの言動も含まれます。[2]
確認するのは「何を求めているか」と「どのように求めているか」です。会社にミスがあり、返金や説明を求めることに理由があっても、担当者を殴る、人格を否定する、土下座を強要する等の行為まで正当化されるわけではありません。逆に、厳しい指摘や不満の表明だけで一律にカスハラと決めることもできません。

口コミの予告と土下座要求をどう考えるか

判断のためのモデルケース
個別の状況を総合して確認します。

言動の例 判断の着眼点 現場の対応例
購入した商品に不具合があるので交換してほしい 通常の苦情・申入れとして対応する場面 購入状況と不具合を確認し、対応方針を説明
対応に納得できないので、口コミに感想を書く 発言だけで一律にカスハラとは判断しない 事実と不満の内容を確認し、説明を尽くす
無料にしなければ担当者の顔写真をSNSにさらす 不当な要求や個人への威圧を確認する場面 上司へ交代し、投稿予告等を保存して相談
失敗したのだから土下座しろと繰り返す 屈辱的な行為の強要に当たり得る 適切な謝罪・是正と区別し、要求には応じない
十分に説明しても同じ要求を繰り返し拘束する 経緯・頻度・時間・業務への支障を確認 責任者が対応範囲と終了の判断を行う
商品を投げつける、殴る、危害を加えると脅す 身体の危険や犯罪に当たり得る言動 距離を取り、安全確保と警察への通報を優先

低評価の投稿それ自体と、悪評や個人情報の拡散を材料に相手を脅して要求を通そうとする言動は、経緯や具体的な表現を確認して判断します。厚生労働省の指針も、悪評投稿をほのめかして脅す言動や、土下座の強要を例示しています。[3]

対応時間だけで自動的に判断することも適切ではありません。内容が複雑で説明に時間がかかる苦情もあります。一方、暴力等の強い苦痛を与える言動は、1回でも問題となり得ます。会社側の説明不足や不適切な対応があれば、その改善も並行して行います。

現場で使う声かけの例

次は当事務所が作成したモデル文例です。相手を刺激する可能性や現場の危険度を踏まえ、責任者が判断してください。身体への危険があるときは、説明を続けるより避難・応援要請を優先します。
【苦情の内容を確認するとき】

「ご不便をおかけした点を確認いたします。どの対応について、どのようなご希望がおありか、お聞かせいただけますか。」
最初に不満や要求の内容を確認し、調査が必要な点と、その場で回答できる点を整理します。事実を確認する前に、返金や賠償を無条件に約束することは避けます。

【暴言や土下座要求が続くとき】
「ご指摘については責任者が確認いたします。ただ、従業員への暴言や土下座のご要求には応じられません。以後は責任者が対応いたします。」
苦情を受け止めることと、従業員に屈辱的な行為をさせることを分けます。会社のミスがある場合の謝罪や是正は、責任者が適切に進めます。

【十分に説明しても過剰な要求が繰り返されるとき】
「ご案内できる内容は、ただいまお伝えしたとおりです。同じご要求が続く場合は、本日の対応を終了いたします。今後のお問い合わせは、担当窓口へお願いいたします。」

電話終了や退店要請等の判断は、あらかじめ会社が定めた手順に沿って行います。医療・介護などでは、サービスの提供義務や、対応を中断することによる生命・健康への影響も考慮し、一般店舗のルールをそのまま当てはめないことが必要です。[3][4]

担当者を一人にしないための対応手順

  1. 危険の有無を確認する。
    暴力や切迫した危害のおそれがあれば、応援・避難・警察への通報を優先する。
  2. 上司・責任者へ交代する。
    担当者一人に判断や謝罪を続けさせず、必要に応じて複数人で対応する。
  3. 事実と要求を整理する。
    会社が対応すべき点と、応じられない要求を確認し、対応範囲を説明する。
  4. 記録を残す。
    日時、場所、言動、要求内容、対応者、周囲の状況、説明内容、証拠の所在を整理する。
  5. 被害を受けた従業員を支援する。
    休憩・担当変更等を検討し、再発防止に必要な社内共有を行う。

録音・録画、メール、口コミ等の記録は、事実確認に役立ちます。保存目的、閲覧できる人、保存期間等を決め、個人情報を適切に取り扱ってください。SNSに従業員や顧客の情報を載せて対抗する対応は避けます。[4][5]

会社が整えるのは掲示物だけではない

義務化後は、方針を掲示するだけでなく、相談が入ったときに実際に動ける体制が求められます。方針と対処内容の周知、相談体制、事実確認や被害者への配慮・再発防止、悪質な事案への対応体制等を、事業の実態に合わせて整えます。相談者等のプライバシー保護と、相談等を理由に不利益な取扱いをしないことの周知も必要です。[1][5][6]

・誰が最初の連絡を受け、誰が現場へ応援に入るか。責任者が不在の時間帯はどうするか。

・担当者の交代、電話終了、退店要請、警察・弁護士等への相談を、誰が判断するか。

・店舗・部署ごとの相談先と記録方法を、パートや新入社員も確認できるか。

・被害を受けた従業員に、会社がどのような配慮をするか。

就業規則、カスハラ対応マニュアル、窓口一覧、研修で説明する内容をそろえると、担当者による判断のばらつきを減らせます。外部相談窓口を利用する場合も、受付対象、対応時間、会社への連絡方法、報告範囲等を事前に決めておきましょう。

よくある質問

従業員が10人未満でも対策は必要ですか

必要です。カスハラ防止措置は、企業規模を問わず事業主に義務付けられています。就業規則の届出義務の有無と、カスハラ対策義務の有無は分けて確認してください。[1]

合理的配慮を求められたらカスハラですか

障害を理由とする不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的な障壁を取り除く配慮が必要だと伝えること自体は、カスハラに当たりません。消費者の正当な権利や合理的配慮の提供義務を踏まえて対応します。[6]

カスハラか判断できない段階でも相談を受けるべきですか

相談を受けられる体制が必要です。該当するか微妙な場合も、現場が一人で結論を出すのを待たず、窓口で広く受け止め、状況を確認してください。[5]

カスハラ対策の規程と現場対応を整えたい会社さまへ

イイズカ事務所では、カスハラ対策の方針・マニュアル、就業規則等との整合、相談窓口の運用、管理職・従業員向け研修についてご相談を承ります。

起こりやすい場面を伺い、連絡先、担当交代、記録と報告の手順を具体化します。悪質な事案で法的対応が必要な場合は、弁護士や警察への相談事項も整理します。

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